前回の第一部:宿泊体験を決めた理由と竹田建設との出会いと、第二部:妻目線で泊まってみた感想を経て、今回の宿泊体験レポート第三部は筆者の私自身が建築を知る身として感じたこと、気づいたことなどを最後のまとめとしてレポートしたいと思います。最後までお付き合いのほど、お願いします。
設計思想 ― 景色と街への配慮
泊まってみて強く感じたのは、この家が satoie の思想を体現しているということでした。
二階リビングは、設計段階から「瀬戸内の景色を暮らしに取り込む」ことを解説として聞きましたが、実際に朝昼晩と過ごしてみると、窓からの眺めが刻一刻と変わり、居る場所によって感じる印象も変化します。名前になっている「見晴らしの家」の意味を、肌で理解できました。




建物を敷地に対して斜めに配置したのも設計の妙。冬の日射取得を意図したパッシブ戦略でありながら、道側には“街の顔”をつくり、視線と近隣への配慮も兼ねています。斜め配置によって生まれた4つの庭をちゃんと庭として使うことで、街へ緑のお裾分けをしているよう。北面道路に面した場所にはベンチを設けて、住む人と街の人との距離を縮めようとしている選択も印象的です。

夏の日射遮蔽も非常に工夫されていました。外付けブラインドを二階のデッキ軒先に配置し、開放感を保ちつつ日射を遮る。これが、「空間の有用性を損なわずに快適さを上げる工夫」の一例だと思います。こうした設計の積み重ねが、「街と住まい、人と自然とのつながり」を感じさせてくれました。





自然素材 ― “効果”より“質感”が大切
一晩泊まって最も強く感じたのは、自然素材の“質感”そのものの心地よさでした。光との馴染み方、手で触れたときのやわらかさ。これが暮らす人にとって最初に伝わる“体感”なのだと思います。




もちろん、吸放湿性・蓄熱性・健康性(人体無害など)の効果もあります。しかし、それらの“効果”を引き出すための媒体として、素材そのものの“感触”がなければ意味をなさないと実感しました。
妻が言っていた「空気が澄んでいる」という感覚も、単なる換気や空調性能だけではなく、この自然素材によって生まれる柔らかさが大切な要素になっているはずです。新建材だけでは決して出せない“安心感”が、この家の中にいると自然に重なっていました。自然素材、設計思想、換気・空調が一体となることが建築としての魅力になると再確認できた次第です。
換気と空調 ― 設備を意識させない静けさと安定
この家で最も驚いた点の一つが、風や音を感じさせない換気・空調の調和です。

滞在中、空調の吹き出し口からの気流を感じることはほとんどありませんでした。風切り音や機械音も聞こえず、空気が淀む感覚も皆無。むしろ空気が抜けよく流れているのに、「空調を使っている」意識がまったくありませんでした。呼吸が自然に深くなるような澄んだ空気感と、ほのかな木の香りが混ざり合い、心が静まるような時間を過ごせたのは、この調和あってこそ。
さらに驚くべきは、機器の存在感を感じさせずに、温度も湿度も快適域を維持できている点。世界基準の快適指数をクリアしている設計力だと思います。私は喉が弱く空気に敏感ですが、この家では乾燥・カビに起因する咳は一切出ませんでした。これは、住宅という枠を超えて“健康環境の実体験”だと思います。設備を意識せずに住める環境は、日常生活をより自然に、ストレス少なくします。妻にとっては、おそらくこの体験は希少なもの。年齢を重ねても、家の中の快適さが変わらず、特別な操作や努力なく暮らせるという安心感は、未来を考えたときの大きな資産になります。
室内環境 ― “快適”を忘れる家
さらに印象的だったのは、数値と体感の一致です。滞在中、スイッチボットで室温と湿度を見ていましたが、数値はおおむね 23.7〜25.7℃、湿度45〜56%。絶対湿度に換算すると 10〜12 g/㎥ 前後で安定していました。ただ「快適」というよりも、むしろ「無」。暑いとか寒いとかを一切意識しない。風を感じず、空調機器の存在を忘れる。これまで高性能住宅を数多く体感してきましたが、この“何も思わない”感覚は初めてでした。

※補足解説
人間が快適に過ごせる環境は、季節ごとに少しずつ変わります。
- 春秋:20〜25℃、絶対湿度8〜12 g/㎥
- 夏:25〜28℃、絶対湿度10〜14 g/㎥
- 冬:18〜22℃、絶対湿度7〜9 g/㎥
今回のモデルハウスは、この「四季を通じた快適領域」のど真ん中を維持していたことになります。一般的に、室内の絶対湿度の快適帯はおおむね 6〜12 g/㎥ とされますが、この家の 10〜12 g/㎥ は「無意識に過ごせる帯域」に位置していました。
数値と体感が完全に一致しているという事実は、この設計がいかに精緻に練られているかを思い知らされました。パッシブハウスの設計は見えない部分での労力があるからこそ、この体感が得られるんですね。
他の住宅との決定的な違い
これまで全国の工務店の住宅を見てきた経験を踏まえて、このモデルハウスを際立たせるのは、「トータルバランスの高さ」です。
意匠の設計力、構造の質、整った間取りと収納計画。生活者の年齢変化に応じた配慮、子育て期の悩みの軽減、暮らしの中に価値を加える窓辺づくり。さらに断熱性能も世界基準。


もし性能・デザイン・快適性・街との関係性をグラフに描いたら、ほぼすべての軸で満点に近い。どれか一つが優れているというより、「すべてがきちんと高水準」である点がこの家の真の強みです。
一生に一度ともなりうる家づくりにおいて、予算やスタイルは人それぞれですが、こうした全体のバランスを設計できる知識と技術を持つ工務店を選びたいと思いました。
泊まることで得た気づき ― 心に生まれる“凪”
パッシブハウスはこれまで、ドイツや国内で体感したことはありましたが、泊まってじっくり過ごすという体験は初めてでした。そして気づいたこと、それは “気持ちに凪ができる” ということ。
日常は常に何かに追われたり、予定や義務に急かされたりする瞬間があります。人のバイオリズムも浮き沈みをもたらします。そんな中、この家では体も心もゆっくりと凪いでいくような感覚があったのです。

夜、デッキに出て外の風を感じながら、家族とゆったりとした会話を交わしていたとき。朝、柔らかな光が差し込む中で気持ちよく目覚め、窓を開けると透き通った空気が迎えてくれる。そうした瞬間の連続が、暮らしの「凪」の時間を刻んでくれました。この家は、住む人が前を向けるように、リセットできるように、家族の時間を自然と尊重できるようにデザインされていると思います。何もしない時間を意識せずに持てること、子どものありのままを見ていられること、そんな幸せが大袈裟な表現というわけでもなく当然のようにありました。

今回の宿泊体験を通じて
これまで、パッシブハウスを「理論として」「数値として」理解していました。しかし一晩泊まって本質を知ったのは、パッシブハウスの真価は “無意識な快適さ” と “心の静けさ” にあるということ。
satoieのモデルハウスは、設計・素材・換気・空調・街との関係性すべてを包含して、住む人の暮らしを丁寧に紡いでいました。これからの日本の家づくりにとって、この体験が示すのは、「ただ住める家」から「心を整える場へ」という可能性だと思います。
この心と身体の快適さをぜひ、岡山で暮らす人、これから家づくりを考える人には知ってほしいと心から思った1日でした。貴重な体験をさせていただき、かつ温かいおもてなしをいただいた竹田建設の皆様には感謝をこの場でも申し上げたいと思いました。
読者の皆様も、長く稚拙な文章ではあったかと思いますが、最後までご拝読いただきまして御礼申し上げます。家づくりに悩む前に、まずは竹田建設さんの家づくり相談に伺ってみることをお勧めいたします。
最後になりますが、こちらの竹田建設-satoie様のモデルハウスは家のルームツアーと外構のルームツアーの動画をYouTubeにアップされています。家づくりの参考になるかと思いますので、ぜひご覧いただきイベント等を通じて実際に体感してみるのが良いかと思います。体感に勝る学びはありません!